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『シッコ』

マイケル・ムーア監督の話題作『シッコ』を観てきた。実は試写会に当たっていたのだが、たまたま『TAXi 4』がこれと同じ日に当たってしまい、『TAXi 4』はお金を払って観に行かないだろうと思ったので、『シッコ』を公開になってから観ることにしたのだった。期待に違わず面白かった!123分があっという間。

続き

自国に愛情を持っていなければ、こんな映画は撮れないだろう。アメリカの医療保険体制の問題点をえぐりだし、カナダ、フランス、イギリス、キューバの優れたところを並べ立てるが、アメリカに喧嘩を売っているわけではなく、なんとかして良くなってほしいものだという願いが伝わってくるように思えた。そりゃ医療費がかからないという点だけを取り上げれば、カナダもフランスも天国に見える。だからと言って、これらの国々が他の問題を抱えていないわけではない。それを十分承知であえて比較しているが、きれいごとに見えないのは、構成のうまさだろう。保険制度の欺瞞を明るみに出す試みもさることながら、この映画の力となっているのは、医療を求める人々の切実な声だ。アメリカの保険制度の下では適切な検査も治療も受けられなかった人が、キューバでそれを実現したのはともかく事実なのだ。あの患者さんたちは、手厚い治療を受けて、もちろん嬉しかっただろうが、なぜ自国でこれが不可能なのかと、いっそう悲しくもなっただろう。

個人的な話になるが、アメリカの医療費の高さは痛感した経験がある。もう10年以上前のことだが、私の父がハワイで倒れ、現地の病院に入院した。日本ではまず望めないほどの万全の医療体制で、最先端レベルの治療を受けることができた。が、しかし…入院費は誇張でもなんでもなく、1日100万円だった!特にハワイは医療費が高いそうだ。父はもちろん旅行傷害保険に入っていたから、全額を払ったわけではないが、それでも気が遠くなるような出費だった。医療費が高いから、保険会社もなんとかして払わずに済ませようと必死になるのだろう。せっかくの高いレベルの医療体制も、その恩恵を受ける人が一握りでは意味がない。この映画がきっかけで、アメリカの医療問題・保険問題が好転することを祈るばかりだ。

扱っているテーマはきわめて深刻なものだが、エンターテインメント性も捨ててはいない。ムーア監督の取材のうまさ、自分を極力出さずに相手の話を引き出す手腕には感心するし、彼自身の存在そのものも愛すべきものだ。音楽の使い方も面白い。笑ってしまうところも多々ある。

我々にとっても、医療問題は対岸の火事ではない。。保険の不払い問題も表面化しているし、類を見ない高齢化社会に向かって、わが国の医療はどこに向かおうとしているのか。空恐ろしくなる。

(2007.8.28 ユナイテッドシネマとしまえん にて)

『シッコ』公式サイト

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