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『パンズ・ラビリンス』

「PAN'S LABYRINTH」 というタイトルと、主演の少女の表情に惹かれて、観てみたいと思っていた。もっとファンタジー色が濃い作品かと想像していたのだが、意外に意外。時代背景がきっちり設定されており、現実の残酷さが大きな意味を持ってくる。でも、そのために幻想部分とのコントラストがインパクトを生み、大変見ごたえがある。先日の気の抜けたファンタジーとは違って、素晴らしい作品になっていると感じた。スペイン・メキシコ映画ということで、やはり他の国の作品とは一味も二味も違う魅力がある。久しぶりにスペイン語を聞いて、スペイン語の持つ音の力強さと美しさをあらためて実感した。この作品が英語でなくてよかった!

続き

この作品においては、生と死、残酷さと美しさが見事な対照をなしている。なぜPG-12指定になっているのかなと観る前は思っていたが、なるほど、かなり残酷なシーンがある。容赦ない銃撃、拷問、相手を切り裂くナイフ…けれども、これらの残酷さは、この世が幸せな場所ではないと知ってしまった少女が、幻想の世界へと入り込んでゆくために不可欠な要素なのだろう。そしてストーリーに重みを与えているのは、オフェリアが単に現実逃避を夢見る少女なのではなく、現実をしっかり見据えたうえで、自分では意識することなく、あたかも神が褒美として準備してくれたかのように、幻想の中へ踏み込んでゆくという点である。もはや幼い少女ではないが、大人になる一歩手前の、この一瞬の輝きとも思える年頃の設定は絶妙だ。オフェリアを演じるイバナ・バケロの素晴らしいこと!印象的な黒い大きな瞳、知的なまなざし。耐え切れないほどの大きなものを背負いながら、自分の意思と言うものを決して捨てない主人公に、これほどぴったりのキャスティングはないと思える。

パン神のビジュアルだけが、少々気になった。ギリシャ神話の半獣半神パンは、それこそ様々な形で描かれるが、映画の中ではいささか怪獣風な趣だ。

オフェリアが、愛と責任を放棄しなかったために命を落とすことで永遠の安らぎを得る結末は、あまりにも悲しく、あまりにも美しい。マリベル・ベルドゥ演じるメルセデスの歌う子守唄が実に物悲しく響いて心に残る。

(2007.10.26 恵比寿ガーデンシネマにて)

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