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『M』

まもなく10月を迎えようというのに、今日は真夏日。炎天下の渋谷を歩くには気が重かったが、見逃してしまうといけないと思い、ヨロヨロと行ってきた。予想していたほど暗い作品ではなかったし、結構楽しめたと言えるだろう。

続き

全体的な感想としては、テーマは異なるにしても、ミニ・サッド ヴァケイションというような印象だった。何も、高良健吾さんが、同じようなタイプの人物を演じているからというわけではない。全編から漂ってくる空気の質が似ていると言うのかな。『サッド ヴァケイション』の間宮運送ほど、人間模様が描かれているわけではないが、『M』の新聞販売所は、同じような位置を占める場に見える。ただ、主人公の稔はともかく、聡子が抱えている焦燥感というのか、トラウマというのかが、きわめて現代的ではあっても深みがなく、説得力に欠けるため、作品のスケールが小さくなってしまっているような気がするのだ。

私はバランスのとれた作品が好きではあるのだが、『M』は、そこそこストーリーは面白く、そこそこ暗く、そこそこエロティックで、…といった趣で、突出している部分がなさすぎて、少し平板に思える。ただ台詞にはわざとらしさも、説明的なところもなく、よく練れた脚本だと感じた。映像も人物の表情の撮り方が好きだ。

出演者で最も印象に残ったのは、ヤクザ役の田口トモロヲさん。本当にいろいろな役をやる俳優さんだが、これは素晴らしかった。背筋が冷たくなるような悪役ぶりが見事だ。主役の美元さん、映画初出演だそうだが、はまり役だったと思う。肢体の美しさはもちろん、エロティックな場面での微妙な表情がとてもよかった。私は女性の目からしか見ることが出来ないが、男性から見るとどうなのだろう。きわどい場面が多いわりには、清潔感があって、あまりエロさは感じなかったが。高良さんは、この役にはぴったりだけれど、『サッド ヴァケイション』でも、同様の鬱屈した青年を演じているし、このタイプの役ばかりでは可能性を狭めてしまうのではないかと、余計な心配もしたくなる。大森南朋さんの役どころは、ちょっともったいない気もする。なんだかよくわからない煮え切らない男なんだもの。

ちょっと皮肉かも知れないが、この作品でイチオシなのは、荒木経惟氏によるメインビジュアルの写真かも知れない。

(2007.9.28 ユーロスペースにて)

映画公式サイト

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