たいへ評価が高い作品だし、すでに鑑賞した友人たちも口を揃えて、とても良かったと言うのだが、アニメが苦手な部類に入る私は、ずるずる後回しにしてきて、やっと今日観てきた。
独創的なタッチの絵と、マルジャン・サトラピ監督自身である少女の物語を軸に、戦火の時代、異文化間の葛藤、深い家族愛が描かれ、ストーリーはとても面白かった。単純な線と面とで、あれだけしっかりした内容の作品に仕上げた原動力のひとつとして、声の要素は見過ごせないだろう。カトリーヌ・ドヌーヴ、キアラ・マストロヤンニ、ダニエル・ダリューの声は本当によかった。英語版も声は豪華メンバーだが、これはやはりフランス語版で見るべきだろう。イギリス人の英語訛りのフランス語など、可笑しいところがたくさんあるのだ。
最近、イスラム圏が登場する映画をしばしば観ているので、ある程度なじみがあるが、それでもイランの少女がアイアン・メイデンを好きとはびっくりした。ビー・ジーズのほうはともかく、メタル系の音楽がイランで認知されているとは思ってもみなかった。やはり言い古された言葉ではあるが、音楽は国境を越える、ということか。少女時代のマルジャンの屈託のなさは、時代が少し違うものの、つい先日読んだ麻生久美子さんの 『忘れられない花のいろ 麻生久美子のイラン紀行』 に描かれていることと相通ずるものがある。人々の本質は、宗教を超えたところにあるということがよくわかる。ひたすら子供の幸せを願う両親や祖母のありようが、国や時代によらず普遍的なものだという当たり前のことをあらためて感じさせてもくれる。マルジャンの祖母の、ブラジャーにジャスミンの花を入れるというエピソードがとてもよかった。ジャスミンの花が舞うエンドロールが美しい。
あとから、そうやって分析してみれば、とても素敵な映画なのだが、結局私は、アニメであるという一事のために、どうしても最後まで映画に没頭することができなかった。声の出演者たちは確かに素晴らしいけれども、原作のグラフィック・ノベルを読んでいるほうがよいのではないかという気がした。あるいは紙芝居的な静止画で、これらの声が入っていたらもっとよかったかなとも思う。絵のタッチはとても好ましいものだし、それがこの映画の魅力だということに異論はないが、背景描写のほとんどないアニメを1時間35分観ているのは少々辛かった。
(2008.2.25 新宿ガーデンシネマにて)