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『風の外側』

奥田瑛二監督作品は、『長い散歩』を観そびれてしまったので、これは観たいと思っていた。「夢」をテーマにした青春映画を作りたくて撮った作品だそうだが、聞くと歯が浮いてしまいそうな「夢」とか「青春」という言葉だけでは括ることのできない非常に内容の濃い作品だと感じた。何も事前情報を入れないで観に行ったので、奥田ファミリー総出であることに少々びっくりしたが、お手盛り感はいっさい感じさせず、客観的にみてもとても気持ちのよい映画だ。『風の外側』というタイトルも、実によい。作品のもつ魅力を端的に言い表しているように思える。

続き
あと一押ししたら嫌味になる、あるいはしらけるものになってしまいそうな各要素を実に上手く配分して作られていると感心する。青年と少女の出自の問題は、さすがに「今時そんなこと言う人いるんだ!」という台詞ほど簡単に済ませられないとも思うが、悲劇に偏らず、かと言って、おざなりでもなく、うまい描き方だなと感じる。

高校のコーラス部を描いても、スポ根風ではなく、成功物語でもなく、主人公の少女を描いても、とりわけ感受性が鋭いとか、とりわけ純真とか、同級生たちからみてとくに際立った存在というわけでもなく、この年齢の少女が多かれ少なかれ秘めている知性と、葛藤と、思春期の心の揺れを備えている少女として、我々の前に登場する。要するに、各要素のすべてに過剰な一生懸命さが見えないところが、私の一番気に入った点だ。主演の安藤サクラさん(岩田真理子役)、母堂の安藤和津さんにそっくりな面差し。彼女が本当によい。芯のある少女にぴったりだ。映画初出演の佐々木崇雄さん(チョ・ソンムン役)も頑張っていた。表情のない前半部と、自分の家族を前にしたときの明るい表情の落差がとてもよい。佐々木さんに不満はないが、こういう役をオダギリにやってもらいたいなあと、つい思ってしまった。脇を固めるベテラン俳優さんたちの中では、やはり夏木マリさん(チョ・ソンムンの母親役)が印象的。頭をひっぱたくときのあまりの迫力に、会場が大いに湧いた。

ロケ地も雰囲気があり、山口弁とあいまって、とても新鮮だった。チョ・ソンムンの海への飛び込み方、コーラス・コンクールのときの真理子がチョ・ソンムンを見つめて歌い続けるその表情、いいなと思えるシーンのたくさんある映画だった。

(2008.1.21 K's Cinemaにて)

奥田瑛二オフィシャルサイト―映画作品情報

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